切なるお題③
-切情-【ひたすら思う心】
銀時は万事屋の椅子に気だるそうに座ってぼぉっとしていた。
―――最近、土方の野郎が素っ気ない。
『気がする』ではなく、実際に避けられていた。
ついこの間までは当たり前のように顔を合わせていたのにだ。
ある日突然会う回数も見かける回数も減ってきて、疑問に思った銀時は久しぶりに夜土方の部屋を訪ねた。
―――もう来るな。
行って早々返ってきたセリフである。
銀時はショックを受けるでも、驚くでもなく―――なんとなく、ムシャクシャした。
それ以来、土方とは既に1ヶ月以上会っていない。
先に述べておく必要があるが、この者達を『恋人同士』―――と言ってしまうには、少々語弊がある。
まず、お互いに付き合っているという自覚がない。
例えば、街中で出くわせば飲み屋へ行き、酒を酌み交わす程度。
時には土方が万事屋、銀時が土方の自室を訪れるなどしていたが、他愛のない世間話をすれば満足して別れる程度。
・・・・・少々どころではなかった。
言うなれば、『友人以上恋人未満』の付き合い。
傍から見れば恋人同士のやり取りにしか見えなくても、彼らにとってはそれが普通になっていた。
そう、あくまで友人。
だから少しくらい会わない日が続こうが何の不思議もない。
何の問題もない。―――だが・・・
「・・・・・・・・。」
銀時は尚も椅子に座ったまま呆けている。
銀時にはどうしても腑に落ちないことがあった。
(もう来るな。)
あの時の土方の言葉が耳に残る。
別に喧嘩をした訳でも、変にからかった訳でもない。
突然の土方の豹変ぶりに、銀時は疑問を感じずにはいられなかった。
「反抗期かぁ・・・?」
ある訳もない考えが自然と浮かんできてしまう始末。
必死に考えを巡らせているうち、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきてとりあえず思考をストップさせた。
「・・・オイオイ、なぁんで俺があいつのことでこんな頭抱えなきゃなんねぇんだ?アホらし」
「・・・さん、・・んさん。・・・・ッん!」
「銀さんッッッ!!!」
「あぁ?」
ぶつぶつと独り言を言っているところに大声で名を呼ばれ、見ればすっかり家政婦モードになっている新八が仁王立ちでこちらを睨みつけていた。
「あぁ?じゃないですよ!掃除手伝ってくださいってさっきから言ってるじゃないですか!」
「わぁーったよ。ったく、おめぇは俺の母ちゃんかって・・・あ。」
立ちあがった拍子に積み重なったジャンプやら何やらに肘がぶつかり、けたたましい音を立てて床に散らばった。
「・・・・・・・・あのぉ新八君・・・?ごめんね☆」
「・・・・・・・・手伝う気が無いなら外で仕事探してきてください。何ならそのまま一生帰って来なくていいですよ。」
万事屋から追い出された銀時は一人、行くあてもなく歩きながら時間を潰していた。
「ッたくよぉ・・・万事屋の主人である俺を追い出すたぁいい度胸じゃねぇかぁ・・・減給だ減給ッッ!あ、給料払ってねんだった。。。」
虚しい独り言を呟きながらトボトボと歩く銀時に、不意に声がかけられる。
「旦那。」
「お?、総一郎君。」
「総悟でさぁ。」
「最近この辺で結構見かけるよな。そっちから声かけてくれんの珍しいじゃん、総ごっくん。」
「斬っていいですかぃ?それは、誰かさんがいきなり巡回場所を代われなんて言いやがるもんですから、仕方なく今こちら側に来てるからでさぁ。」
「あぁ・・・そ。」
なるほど。と銀時は妙に納得する。
誰かさんとは土方に間違いないだろう。
避けられているのだからそれくらいは当然と言えば当然である。
だがそのとき、銀時の中のムシャクシャがイライラに変わった。
そこまでするか?
なぜそこまで拒否られなきゃならない?
銀時がうんうん唸っている傍で総悟は呆れたような視線を向けていたが不意に口を開いた。
「それはそうと旦那。一体どうしてくれんですかぃ?」
「・・・何がだ?」
「こっちに来たくない理由でもあるから巡回場所を代わったのかと思えば、前より一層機嫌が悪くなってやがる。怒鳴ってばっかで隊士達がクタクタになっていけねぇや。まったく何を考えてんのかさっぱりでぃ。」
「・・・んな怒ってんのか?」
「怒ってるというよりイラついてんでさぁ。俺としちゃぁそのまま血管切れて逝ってくれた方が清々するんですがねぃ。・・・・・そう言うってことぁやっぱり旦那、何か心当たりが?」
「いやまったく。むしろこっちが聞きてぇくらい。」
「・・・・・旦那意外と鈍いんですねぃ。」
「は?」
「今日なんて特にうざかったですぜ?近藤さん達がせっかく誕生日祝ってやるって言ってんのにいらねぇの一点張りで。」
「何、あいつ今日誕生日なの?」
「知らなかったんですかぃ?」
「まぁ聞いたことなかったからな。」
「知ったんなら丁度いいや。旦那がおめでとうの一言でも言やぁ少しは機嫌が直るんじゃねぇですか?それじゃ。」
言い終わると、沖田は気だるそうに巡回に戻り行ってしまった。
「・・・いや、あり得ないでしょ。」
むしろ機嫌の悪さが度を越して斬りつけられるんじゃね?
嫌な予感しかしない銀時であったが・・・ふと、思った―――
それに今日は土方の誕生日とも沖田は言っていた。。
「・・・・・・。」
銀時の口角が僅かに上がる。
これはいい口実が出来た、とでも言うように―――
その夜、銀時は再度土方の自室を訪れようとしていた。
襖に手をかけようとしたところで中から随分と低い声が響いてきた。
「何しに来やがった?」
一瞬手を止めそうになるが、何事もなかったように襖を開ける。
「何しにって、会いに。・・・・・・あー・・・そんでもって、ストレスで爆発しそうな土方君を癒しに。」
「来るなっつったろ。」
「つってもねぇ・・・;;」
襖を開けるとあの時と同様、土方はこちらに背を向けて書斎机に向かっていた。
違うのは、部屋中が煙草の煙で満たされていたということ。
一体何本、何箱吸えばここまで部屋が白くなるのだろうか・・・
やはり来てよかった。これは放っておけるレベルではない。
銀時は静かに部屋へと上がり込む。
「どうもおかしいと思ってな。最近のおめぇ、人が変っちまったって隊の奴が言ってたぜ?カルシウム足りてる?」
「・・・・・・。」
言いながら銀時は土方の背に背を合わせ寄りかかる。
「何かあったのか?溜め込んでんのを煙草なんかで発散してるんじゃぁ斬られる前に病気になっちまう。」
「・・・何もねぇよ。あったっててめぇに言う必要はねぇ。」
「ま、だろうな。俺避けられてるし。」
「解ってんならとっとと「おめでとさん。」
「なッ・・・」
「誕生日なんだろ?今日。言いに来ただけだ。」
「・・・・・・・ッ、」
「おめぇが俺のことを嫌いになったのならそれでも構やしねぇが、周りの好意に素直に甘えたり頼ったりできねぇのは中二のガキがすることだ。周りがテメェの心配してくれてんのに気付かねぇお前でもねぇだろ?」
「なんでテメェがんなこと・・・総悟か。」
「さぁな、誰だったか。」
「・・・・・・。」
「何が気にくわねぇんだよ。俺に何かあるんなら直接言えば」
「・・・じゃねぇ・・」
「?・・・ッッ!?」
良く聞き取れず土方の方を振り返ると、途端視界が反転し一瞬の間に銀時は土方に押し倒されてしまった。
「いッ!!」
土方の指がギリギリと肩に食い込んでくる。
銀時は痛みに顔を歪めた。
「~~~ッ土方!!イテェって、」
「嫌いなわけじゃねぇ。」
「ッ・・・・・ぉぃ・・・」
土方は押し倒している状態から銀時を包み込むように抱き込んだ。
「むしろ・・・その逆だ。」
強く。強く。
胸の内に秘めてきた想いの丈を全て吐きだそうとでもするように、ただ強く銀時を抱きしめた。
あくまで友人としてつき合ってきた。
これまでも、そしてこれからもその関係のままでいいと土方は思っていた。
しかし、耐えられなかった。
日を追うごとに、これまで友人・ライバルと思ってきた男を欲してやまない自分自身に。
土方は銀時を愛していた。否、愛してしまった。
人の持つ感情とは時に残酷である。
友人として、あるいは好敵手として、ずっと隣に居たいと思っていたそれだけだというのに、己の感情は更にその上を望んでしまったのだ。
苦しくて苦しくて、幾度となく己の気持ちを伝えようとしてもできなかったのは、ただ怖かったから。
≪拒絶されたくない≫
たとえいくら苦しくても、銀時から拒絶されることの方が数段苦しかった。
鬼の副長と恐れられていながら、この程度のことで恐怖すら感じてしまうなど、おかしな話である。
しかし土方にとって銀時という男はそれほど大きな存在だった。
容姿、髪、目、指、唇、声、魂―――全て。何もかもが愛おしく、そのどれをも失いたくはなかった。
そしてその感情は、やがて思考が麻痺してしまう程に強くなる。
≪拒絶される前に、拒絶すればいい≫
ずっと傍に居たいと望んでいた揚句の選択、これほど馬鹿げた話もそうそうない。
それでもこのときの土方には、銀時に想いを伝える以外に苦しみを和らげる方法が見当たらなかった。
「銀時・・・」
これでいい。アイツに会いさえしなければ、顔さえ見なければ、もう苦しまずに済む。
己の選んだ選択肢は“正しい”。そう思いたかった。それなのに―――
「好きだ・・・」
気付けば苦しみは以前より増していた。
会って顔を合わせないだけで、話をしないだけで・・・これは苦しいなんてものではない。
「ずっと・・・」
痛い―――
「好きだった・・・」
想いは告げないと決めていた。
しかし告げずにはいられなかった。
「お前と会って話していたときも・・・」
もう限界だった。
「お前に会わなかった間もずっと・・・」
もう拒絶されても構わない。
「苦しかった・・・」
好きだと言わせてほしい。
「好きだ銀時。」
愛してると言わせてくれ。
「愛してる。」
銀時。
「銀時。」
銀時ッ―――
「土方。」
「ッ」
囁くように名を呼ぶ銀時の声に意識を呼び戻されたかのような感覚を覚え、土方は一気に体の力を抜いた。
「オメェの気持ち、痛ぇ程わかったよ。でもとりあえずさ、苦しいから。どいてくんね?」
「ッッ・・・」
土方は無言で上体を起こし銀時を開放した。
そのまま座り込み、片膝を立ててだらしなく頭を垂れる。
今土方の中はやり切れない気持ちに支配されていた。
情けないとはわかっていても、この場から逃げ出したいとさえ思っていた。
先程から銀時が喋らない。
銀時は全てを知った今、どんな表情を浮かべているだろう。
侮蔑か。憐れみか。はたまた悲しみに歪んでいるか。
様々な思いが交錯する中、突如視界が薄暗くなり―――
「ッ!!?」
ふいに顔を上げた瞬間だった。
思わず時間が止まったかのような錯覚を覚えた。
とにかく今現在のこの状況が俄かに信じ難い。
銀時が己の唇を、つい先程お前が好きだと発した男の唇に重ねているという状況がだ。
ゆっくりと唇が離れる。
土方はまだ茫然としていた。
目が合うと、銀時はどこか呆れたような体で柔らかな笑みを浮かべながら言った。
「ったく、なんつー顔してんだ。・・・そんぐれぇのことで取り乱してんじゃねぇよ、おめぇらしくもねぇ。」
「なッ・・!!」
この男は人の気も知らずにッ・・・と土方は多少の怒りに顔を染める。
声を荒げようとしたが、いつの間にか真顔になった銀時が間を置かず言葉を続けた。
「俺が、そんなことでおめぇのこと嫌いになるとか、本気で思ってんならぶん殴るぜ?」
「ッッ・・・てめぇに何が、」
「分かるから言ってんじゃねぇか。もう俺らはそんな遠慮し合うようなお堅い仲じゃねぇだろーが。そぉいうのはなぁ、青い春を生き急ぎ過ぎた中学生カップルだけで十分なんだよ。」
「・・・・・だったら、今のはお前からの返事と取っていいんだな?」
「いや、土方君がして欲しそうな顔してたから。銀さんの出血大サービス?」
「・・・ふ、ざけんな何がサービスだテメェッッ!!!紛らわしいんだよッマジで出血させんぞコラッッ!!」
「ちなみに、このサービスは土方君以外には発生しねぇけどな。」
「あ?」
「誰かれ構わずする訳ねぇだろぉ?キスとか・・・」
言いながら銀時は立ち上がり、土方の隣に座りなおすと淡々と話し始めた。
「自惚れる気はねぇが、会わなくなってからのおめぇの様子聞いて、なんとなくだがそんな気がしてたんだ。始めはまさかと思ったがな。それまでは考えたこともなかったから。オメェのことは気の合うダチって感じで、そんな特別な感情を持ってた訳でもねぇし・・・」
「・・・そうだろうな。」
「でも、お前にその感情を持たれるってのは、悪い気はしない。特に抵抗もないし、お前に触れられて不快とも思わない。むしろ、今となっては俺も同じ気持ちかもしんねぇな・・・もっとも、お前ほどじゃぁねぇんだろうけど。」
「・・・ッ」
銀時自身、数日間土方と会わなかった間は、楽しみが一つ減ったような・・・そんな際どい喪失感を心のどこかで感じていた。
それが“寂しい”という感情だということに、銀時はずっと気付けずにいたのである。
だが土方の想いの全てを聞いて、銀時は漸く理解した。
(あぁ、そうか。俺は待ってたんだな・・・自分の気持ちにも気付かせてくれる、この言葉を・・・ずっと、欲しかったんだ・・・)
「まだ気持ちとしちゃぁ不安定ではあるが、確かに言えるのは、俺は土方の感情を純粋に受け止める気があるってことだ。」
「、銀時ッ!」
喉から絞り出すような声で愛しい者の名を呼びながら、土方は銀時の体をきつく抱きしめた。
ただ嬉しくて。嬉しくて嬉しくて、言葉では言い尽くせない程に満たされたようだった。
「ありがとう・・・ありがとうな、銀時。」
「オイオイやめろよなぁマジで・・・おめぇに礼言われるとサブイボが;;」
「うるせぇ。・・・・・銀時、」
「ん?あぁ、・・・ッン・・」
銀時は土方の要求に素直に応じ、互いの唇が重なる。
先程のとは違い、長く、深い口付けだった。
一生とも思えるほどの長く、甘美な時間が終わり唇が離れると、土方は銀時の目を見つめつつ挑戦的な笑みを浮かべた。
「覚悟しとくんだな、俺しか見えねぇぐらい今以上に惚れさせてやる。」
「安心しろよ、おめぇは俺ん中じゃぁいつだって結野アナの次だからな。」
「・・・・・・安 心 し ろ ッ 。テメェの好きなケツの穴ごと俺が愛してやるからよぉ。。。」
「おいテメ、ふざけんなよ?結野アナはなぁ・・・アレ?なんか悪寒が・・・」
「とりあえず布団敷くから横んなれ。」
「ちょっとぉ!!?あのなぁ、物事には順序っつーもんがあってだなぁ!あのー・・・瞳孔開かないで300円上げるからぁ・・・」
斯くしてある男の、切ない程の恋する想いは実った。
しかし、この者達が真に身と心を繋ぐ日は、まだ少しだけ先の話なのである―――
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・・・・・・・・・・・・・・・なんか時間かけといてかなりありがちな内容、、、
やはり虹へ逃亡し(ry
今回久々の客観視点からの執筆で、言葉の言い回しとかにめっさ苦労しました;;;
結野アナ連呼してさーせん。m(__)m愛故です。←いや意味わからん。
沖田君がいつも似たようなポジションになってしまう;;;orz
意外と扱いやすいキャラだと思うんですよねぇ・・・
たまには沖田君とのラヴも描いてあげたい。。。
お題のテーマ。『切情』だった訳ですけど。
切ない・・・・・・切ない・・・?切・・・
・・・・・・・orz←
めっちゃ眉間にシワ寄せて苦しそうに想いを告げる土方副長を表現したかったとか内緒なのである!\(^o^)/←イッテヨシ
読んでいただきありがとうございました。m(__)m

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